MOS・FET トリプルプッシュ
5台目のアンプを造ります。現状でほぼ満足の行く音が出ている事もあり、これ以上必要無いのではとも思いますが6B4G、6C33C-B共に改造する予定があるので予備のアンプが必要なのと、昨年の今頃造ったMOS・FETパラプッシュの成功に気を良くして、今回は出力段をトリプルプッシュとし、電源部を更に強化する予定です。
ヒートシンクはV‐twin型でと考えていますが、これがなかなか一筋縄では行きません。シャーシ天板を部分的に盛り上げなければならないので、他の部分との絡みで非常に収まりが悪く、難しいです。これまでのアンプがどんなに造り易かったかとすら思えます。前回もこの配置は考えたのですが、途中で面倒臭くなり直列配置になりました(笑)。
昨年末あたりから手に入り難くなりそうな部品(東芝 2SK405/2SJ115、ヒートシンク)を集めていましたが、見るなり「これを使ってV‐twin型で造りたい」と思って購入していたこのヒートシンクは、現時点で手に入らなくなってしまいました。これより大きい物はまだありますが、良いタイミングで購入していたと思います。
どうにもCAD上だけではイメージが湧いて来ないので、最近になって他の部品も揃え始め、現物合わせで配置を検討中です。変わった意匠だけに、うまく行けば面白い形のアンプになると思いますが、いざ完成してバランスが悪いと最悪でしょうね(笑)。早く製作に掛りたいところですが、図面が出来上がらない事には先へ進めません。焦らずじっくり考えて見ます。
2018/10/6
配置がほぼ決まりました。一番の問題だったヒートシンクのV型配置は金属シャーシ部分を前後二分割にしてでも一体で造ろうと四苦八苦していましたが、無理があったので、木製台で嵩上げして取付ける案を考えたら、後はすんなり配置が決まりました。ヒートシンクは前面に配置したかったのですが、嵩上げする事により後部でも存在感は薄れませんし、電源〜入出力までの配線ラインも綺麗に収まります。
東栄変成器に特注で注文していた電源トランスが届きました。今回造るアンプは最大出力付近で+・−それぞれ2.15A、合計で4A以上必要です。一台で間に合わせたかったのですが、この大き目のコアサイズ(122x105)でも+・−電源を造ろうとすると1.75Ax2、合計でDC3.5A(約100VA)までしか取り出せません。これ以上の容量を一台で賄おうとするとコアから特注になるそうで、止むを得ず+電源・−電源専用で二台造ってもらいました。
コンデンサー容量は前MOS・FETアンプの倍、20,000μFです。前回と同じく51φにしたかったのですが、どこも在庫切れだったので64φの物にしました。缶コーヒーより二廻り程大きいです。電源トランスと合わせて余裕のある電源部を造れそうです。2A3の時もそうでしたが十分な電源があると鳴り方が変わってきます。
特性を揃えてもらったMOS・FET 東芝2SK405/2SJ115が12個、SiC SBDはInfineon(旧Siemens)で容量は41Aです。オペアンプは前と同じくLME49860NAを探したんですがこれも入手困難で、どこでも取扱い終了になっていたため、OPA627APにしました。トリプルプッシュもそうですが、前MOS・FETアンプからの変更点も多いのでどんな音になるのか楽しみにしつつ、まだクリアしなければならない部分をこれから図面上で片付けて行きます。
2018/10/12
行き詰まり
フロントパネルの意匠が思い浮かびません。同じ物は造りたく無いので色々と考えましたが、これまでに造ってきたアンプで考えられる事は全て盛り込んで来たので行き詰ってしまいました。フロントパネルは近接する部品の配置が大きく意匠に係わって来ます。図面上で配置はほぼ決定したと思っていましたが、位置を少し変えて再検討中です。現物で配置を高さまで合わせて確認して見ました。
前後の位置はそのままですが、コンデンサー廻りを少し変えて電源トランスまで加わると見た目の印象も結構違います。左画像の配置だとサイドパネル廻りがうまく収まりますが、フロントパネルが今一つ。配置としては右画像のようにしたいのですが、今度はサイドパネルの収まりが不自然になり、前後の位置を置き換えればまた別の問題箇所がと、あちらを立てればこちらが立たずで、うまく収まってくれません。
ちなみにこれまでのアンプのフロントパネル
@ 6B4G 復活一号機。これは思い入れのあるアンプで、津波でダメになった前の6B4Gを意匠まで含めて復刻させましたが、今となっては後から造ったアンプパネルが表情豊かなので、パネルと電源廻りの造り直しを考えています。
A 6C33C-B 二号機。フロントパネルの曲線の処理に製作で苦労しました。これもA・B・C全ての電源の造り直しを考えています。
B MOS・FET 三号機。意匠は良かったのですが、完成してからのカーブの流れと板厚のバランスに少し不満が残りました。
C 2A3 四号機。 これは曲線の処理、意匠、色彩、音、ほぼ全ての面で満足しています。
ほんの些細な所で、一か所で問題が出るとあらゆる場所へと関係してしまい、修整に大きく時間を取られてしまいます。考えれば考えるほど「休むに似たり」の状況が続いて進捗しませんが、ふとした閃きで打開策が見つかる事もあるので、もう少し考えて見ます。
2018/10/15
@
A
B
C
2018/10/19
まだ板金図と検図が残ってますが、何とかまとまって来ました。配置はこれで決定です。現物配置して見ると、V型の中心にダイオードのヒートシンクを持って来た方が放熱フィンが互いに協調(強調)し合い、全体の見た目もすっきりします。これを取り囲むウッドパネルの意匠は、これまでの複雑な曲線処理では無く、単純な曲面にして見ました。材種は一位を使いたいと思っていますが、ヒビ割れや節が多いので、105x105x3000の角材でもこれだけの材積が取れるかどうか分かりません。そんなに使わないだろうと思うかも知れませんが、2A3で使った85x350x2400の材は残り500mm、数本の小割材、どこにも使えそうにない虫食い部分しか残らず工業製品と違い、歩留まりの悪い無垢材ならではの事と思います。
仕上予定 W:561 L:401 H:265 推定重量:25kg前後
今年造ったパワーアンプ用ラックの棚板を造り直さなくてはなりません。4段目、緑色の線の部分ですが、この部分は図面を引く時、あらかじめV‐twin型の概算図形まで描いて寸法を決めたものです。しかしいざ造ろうとしたら電源トランスが二台に増え、コンデンサーも51φの予定が64φへと変更になり、予定寸法より二廻りも大きくなってしまったため、収まらなくなってしまいました。幸いこの棚板は後々造り直しの必要性が出た時の為にと、取外し可能にしていたので一枚だけの加工で済みますが、早くも現実の物となってしまいました。
それにしても、よくこのヒートシンクを見つけたなと思います。中央からシリンダーが立ち上がり、斜め上方へ伸びるのはバルブで上両端はカムシャフトに見えます。設計者は空冷エンジンを模して描いたのかも知れません。ハーレー・V‐twinをイメージして、ヒートシンクの挟み角も45°にしたついでに、悪乗りしてプッシュロッドとロッカーアームカバーまで付けたくなりましたが、止めました(笑)
製図が終わり金属部シャーシも発注したので、出来る所から製作を始めて行きます。まずはヒートシンク底面の加工からです。MOS・FET、ダイオード取付用の3mm、固定スタッド用5mmの止め穴タップ加工ですが、毎度の事ながらアルミは柔らか過ぎてキリに切粉が纏わり付き、切れが止まりやすいのでこういう時は逆に加工がし難いです。
片チャンネル側の基板が完成しました。V型配置のヒートシンクの真下にこの基板を固定します。基板上に開いた穴はMOS・FETへの配線用です。入出力や配線のし易さを考えながら配置して行くので、一枚目は時間が掛りますが次は簡単ですし、これが出来上がっていれば組立て時の内部配線は電源部と入出力、MOS・FETへの配線を残すだけです。
2018/11/1
パワーアンプ用ラックの棚板を造り直しました。総重量が90kgを超えるパワーアンプと、50kg近いラックを移動するのも大変なので、加工する棚板だけ外せないかとインパクトドライバーにアングルアタッチメントを取付けてやって見ましたがダメで、結局はパワーアンプを全て下ろし、ラックを前に引きずり出して棚板を外しました。この棚板は中央に空間を設けるために、前部と後部の板を別の板で接合してあるので、この部分だけ延長すれば前後の板はそのまま使えて必要面積が取れます。塗装前なので色が違いますが、余分に購入していた同じケヤキ材なので、塗装して日にちを置けば同じ色になります。
一位を製材して見ました。木目も色合いも好きな木なのですが、節、ひび割れ、渋、製材後に出てきた入皮などなど、このまま使うには悩み所が多い材です。もう1〜2本製材して見てダメな時は別の材を使うしかありません。次の候補に挙げていたのが色合いの濃いカリンです。木目は大人しいですが、2A3で使った本花梨とはまた違った落着いた色調の木です。
追加で製材して見たのですが、やはり一位を使うには無理があったのでカリンを製材して見たところ、ど真ん中から節が出て来ました。木の使い方を考えて見ても、どうしても表に節が出てしまいます。しょうが無いので、他の部位から製材しようとしたらこの材は小節が多く、良い所を取ろうとすると180mm角・3100mmの材をほとんど切り倒してバラバラにしなければなりません。さ〜て・・・どうしましょうか・・・・・
2018/11/11
加工を頼んでいた金属部のシャーシが届きました。今回は黒に塗装する予定なので、高価な銅板や真鍮は使わず鉄にしました。中央にあるのはV型ヒートシンクのベースですが、ここは真横に電源トランスのコアが来る都合上、鉄では誘導を拾ってMOS・FETに影響が出かねないので、非磁性体の真鍮にしました。色彩的な意味でも良いアクセントになるのではと期待しています。
角穴を開けるにはジグソーの方が間違い無く安全ですが、ちまちまと面倒なので、丸鋸で刃入れの時と、終端での切り過ぎに注意しながら一気に切ります。
シャーシから上は黒なので、ウッドパネルも色調の濃い材を使う予定でしたが、一位、カリンがダメだったので、それならばと今回は着色塗装する事にしてタモを製材しました。このタモは年輪を数えるのが困難なほど恐ろしく目の積んだ、なかなかお目に掛れない良材です。
今回は鉄なので、これまでの真鍮や銅より加工に時間が掛るかなと思いましたが、2mm厚にしたせいか比較的簡単でした。V型ヒートシンク取付台が中央を横切る形になっているので、長い角穴開口部が補強され、強度的にも問題ありません。
塗装前の仮組立確認です。特に問題になるような所はありませんでした。シャーシに載せると配置検討の時とはまた雰囲気が違います。再び取り外して脱脂後、ペーパー掛け、さび止め、黒色塗装、クリア仕上げで金属部シャーシ完成です。
V型のヒートシンク台から製作します。隠し留め三枚継ぎで接合しようとしたら、木が硬くて接合部が小さく、しんどいので一か所造ってボツにしました(爆)
簡単な雇い実で継ぎます。ジョイントカッターが使えれば便利ですが、接合面積が少な過ぎて使えません。
真鍮板に平行四辺形状の狂いがあったので、台を微妙に傾かせて留め継ぎにしました。素人には難しい作業ですが、接合完了です。
2018/11/16
ウッドパネルのホゾ、天板を加工し、金属板との兼ね合いを確認して接合します。この金属板は加工精度が良く、狂いが無かったので調整は必要ありませんでした。
金属板をビスで固定して最終確認します。シャーシの形が具現化し、完成まであと一歩です。
最後の前面とサイドのR加工ですが、丸面は僅かな狂いで光が歪むので、ベルトサンダーで荒加工してから慎重にカンナで仕上げました。この材は目の積んだ素直な材なので加工が楽だろうと思いましたが、かなり硬いです。重量はカリンなどより軽いですが、硬さはそれ以上でした。
最初のストップシーラー塗装後の画像ですが綺麗な色です。ラックのケヤキと同系色なので色が被らなければこのまま使いたいところです。
黒檀調に黒で着色しようと考えていましたが、金属板から上が黒なのでメリハリを付ける為に部分的に赤を出します。木そのものに着色すると調整が効かないので、塗料と着色剤を混合して塗装しました。まずワインレッドに塗装、直接着色と違い平均的に綺麗な色が出ますが濃淡が無く、均一過ぎてやはり何か物足りません。次に黒を調合して塗装し、加減しながら部分的に多目にペーパーを掛けて赤を研ぎ出して行きます。パッと見は黒、よく見ると部分的に赤が出ていて、光が当たると濃いワインレッド・・・・・ と言う色調を目指していますが、色ムラが出たような塗装にならないよう、ペーパーの掛け過ぎ、黒対赤の比率に十分注意しながら仕上げなければなりません。
2018/11/24
もう2〜3回塗りたいところですが、合計8回で塗装終了しました。下地の色が濃いと艶がより際立ちます。
2018/12/2
このような感じで赤を出しました。室内光だと真っ黒ではありませんが黒に近い赤、太陽光を当てると赤色が全面に発色してきます。
銅板や真鍮板よりも比較的楽でしたが、こちらの塗装も結構手間が掛りました。最後は3分艶クリアー仕上げで終了です。
ヒートシンクをシャーシに固定してしまうと、奥まった傾斜した位置になるので、事前にMOS・FETとリード線を取付けておきます。
三日ほど暖かい場所で塗料を乾燥させてから組立て開始です。金属部のシャーシへ予め取付けやすいパーツを固定してからウッドパネルへ取付けました。
トランスとヒートシンクを固定し、全ての組立て作業が終了しました。後は間違いの無いようにじっくりと構えて配線して行きましょうか・・・♪
配線がほぼ終わった時点で各部の電圧チェックをしようとしたら ・・・やってしまいました・・・ アイドリング電流調整ボリュームで抵抗を最小値にしなければならないところを最大側で電源を入れてしまい、気が付いた時は後の祭りでFETがオシャカ・・・ おまけにオペアンプまでおかしいので、MUSES03に変更しました。このトラブルで大幅に遅れてしまいましたが、配線終了です。
2018/12/13 完 成
測定
1KHz/1W出力時の周波数特性です。前回もそうでしたが100KHz近くまでほぼフラットです。出力はクリップ直前で40W、残留雑音は0.1mVとこれも前MOS・FETアンプと同じです。右ch側のMOS・FETが電源トランスに近かったので万一の時に備えてヒートシンクにシールドケース取付用のタップ加工まで施していましたが、杞憂に過ぎませんでした。
2018/12/14
今回は設計の時からヒートシンクの配置で悩み、ウッドパネルの材が二転三転し、それに伴い塗装に余計な工程が入り、最後はとんでもないミスをやらかして、何かと面倒な部分が多く、思ったよりも完成が遅れてしまいました。危惧していた完成バランスも悪く無く、ゴツいアンプになるだろうなと考えていたら落着いた色あいのためか、思いのほかシックな感じにまとまりました。不満な点は杢目が目立たない事でしょうか。元々が大人しい杢目の上に濃い色の着色なのでこれは止むを得ません。配色に試行錯誤したウッドパネルの着色はうまく行ったと思います。画像左と中央が実物に近い色で、光を当てると右のようにワインレッドに発色します。
試聴
数時間程度のエージングで、いつものようにまずはD131へ直結、フルレンジで聴いて見ます。
音が出たとたんに2A3の試聴時の音が蘇ってきました。これは2A3と同等の良いアンプに仕上がったかも知れません。前後左右への広がり、立体感、定位、濃厚さなど音の出し始めとしてはとても良い感じで、2A3ですら最初は高域がキツく感じたのに、角の無いまろやかな音は石アンプと言うよりエージングの行き届いた真空管に近い音に感じます。
次に前MOS・FETアンプと交換して、ウーハーを鳴らして見ました。
前回も真空管からMOS・FETへ変えた時、ウーハーをドライブするには最強と感じましたが、今回のアンプは更に駆動力が高まり、低域の質感が向上しました。前作と同一回路ではありますが、パラプッシュからトリプルプッシュ、電源の強化、そしてオペアンプを変えた事がこの音の変化へと繋がったのかと思います。
MOS・FET二作目「V‐twin」はより質の高いアンプとして無事完成しました。
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完成概容 W:565 L:412 H:273 重量:24kg
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このアンプは完成後、しばらく聴いてからデュアルモノラル化を考えていましたが、最近になってふと思い立って実行して見ました。電源トランスは+電源専用、−電源専用で全く同じものが二つなので簡単にデュアルモノラル化できますし、電源容量も相対的に変わりありません。追加する素子はSiC・SBDが4個のみです。現状のセンタータップ式両波整流(画像上・左)をR・Lそれぞれに独立させた電源トランスからブリッジ整流(画像上・右)へ変更して正負電源を供給します。配線終了後、各電圧、特性を測定して見ましたが当然の事ながら大きな変化はありませんでした。
試聴
フルレンジへ接続して聴いてみると、変更前と比べて明かにクロストークが改善されているのが分かります。まぁ、多少なりとも音質が向上して良かったと思いつつ、元のウーハーへ接続して全体で鳴らして見ると・・・結構変わるものですね。低域は方向性が鈍いのでこの違いは出ないかと思っていましたが、中低域から上の帯域まで変わり、音像がより明確になった感じです。シャーシが一つなので完全なモノラルアンプ2台とは違いますが、モノラルアンプの優位性が理解できました。
2021/10/29
デュアルモノラル化